この連載も,2011年最後の更新となった。今週は,恒例となっている「Access Accepted大賞」を選ぶことにしよう。2011年の欧米ゲーム業界は,例年にないほどの傑作や大作が登場し,息をつく暇もないほどだったが,皆さんは,記憶に残るようなゲームに出会うことができたであろうか。この1年で起きた大きな出来事や,各ジャンルでリリースされたソフトを挙げて,激動の2011年を振り返ってみたい。
あまりにも傑作が多かった,2011年の欧米ゲーム市場
2011年を振り返ると,1月のに始まり,や,そしてなど,前半から大作感のある新作タイトルが次々と投入され,12月の「Star Wars: The Old Republic」に至るまで,とにかく傑作,大作の多い1年だったという印象だ。話題になったゲームの多くには莫大な予算が投入されており,また長く遊べるようにマルチプレイモードに工夫が凝らされた作品が多かった。ともあれ,ドラゴンクエスト10 RMT,年末年始の休みだけでは遊びきれないことは間違いない。
さて,今年もさまざまなニュースが飛び込んできたが,ゲーム業界にとってはとにかくハッキング被害の多い一年だった。ソニー?コンピュータエンタテインメントが被害を受けた違法アクセス事件が記憶に新しいが,そのほかのMojangやのCCP Games,さらにはBethesda SoftworksやEpic Games,「Steam」を運営するValveなども被害を受け,まさに“無差別攻撃”状態だった。
犯人の多くがハッカー?コミュニティで名声を得るための愉快犯であると思われるものの,すでにスペインやイギリスでは逮捕者が出ており,現在でも沈静化したとは言えない状況だ。ゲーム業界のセキュリティの甘さが指摘されることもあり,今後ますますネットへの比重を高めていく欧米ゲーム業界にとっては大きな衝撃となった。
嬉しいニュースとしては,ゲーム関連ハードウェアの売り上げが欧米で好調だったことを挙げたい。ヨーロッパではPlayStation 3が,北米ではXbox 360が売り上げを伸ばし,さらにニンテンドー3DSもリリースされた。Kinectの販売状況も好調で,北米の年末商戦は各社とも「ハードを売りに売った」という感じだ。
「Minecraft」に代表されるインディーズゲームに加え,モバイルゲーム,ドラゴンクエスト10 RMT,ソーシャルゲームが存在感を増し,ゲームの多様化がさらに顕著になったのも2011年の特徴だろう。ブラウザ上でハイレベルな3Dグラフィックスを表現する技術も整い,「OnLive」や「Gaikai」といったクラウドゲーミングの実用化によって,ハードウェアによらないゲームプレイも実現した。「ゲーム」という言葉の概念も,今後変わっていくかもしれない。
そんな2011年も終わりというわけで,ここで毎年恒例の「Access Accepted大賞」の発表を行いたい。いつものようにまずお断りしておくが,これは,筆者が自分でゲームを遊んだ印象や,メディア/プレイヤーの評価を参考に,きわめて個人的に決めるものであり,なんらかの権威のあるものではなく,また4Gamerの総意でもない。そのへん,ご了承いただきたいところ。「あのゲーム,面白かったのに入っていないなあ」と感じる読者がいれば,それは筆者が十分に遊び込めていない可能性があったりもするのだ。異議を拒絶するつもりはまったくないので,どうか,軽い気持ちで読んでみてほしい。
少し自慢できるとすれば,筆者のチョイスは,毎年3月に開催されるGame Developers Conferenceで発表される「Choice Awards」のラインナップと,過去4年にわたってまったく同じだったことを挙げておきたい。まあ,定番といえば,定番すぎるチョイスということなのだろう。
Battlefield 3
開発元: EA DICE
発売元: Electronic Arts
次点としてリストアップしていないものの,,そしてなど,2011年のFPS/TPSは本当にレベルが高かった。筆者が個人的に最も長い時間遊んだのは,発売時期がほかより少し早かったで,こちらもかなり面白かったのだが,やはり2011年のベストとしては,Electronic Artsのを挙げたい。
セールス面では,直接のライバルと目されるに及ばなかったものの,マルチプレイモードの面白さや,多彩なランキングシステムなど,デベロッパであるEA DICEの面目躍如といったところだろう。
本作のために開発されたゲームエンジン,「Frostbite 2」の性能も,少なくともPC版では前評判どおりで,広大な空間の表現やキャラクターアニメーションに新しい時代を感じさせられた。このゲームをプレイするためにPCやパーツを買い換えたというゲーマーも多く,それだけ魅力があったということだろう。今後のDLC展開も楽しみだ。
次点
Portal 2
開発元: Valve
発売元: Valve
欧米で人気の高いFPS/TPSに負けないほどハイクオリティのゲームが次々に登場した,2011年のアクション/アドベンチャージャンル。中でも,の完成度の高さは賞賛すべきだと思う(本作は日本ではパズルゲームに分類したほうがよさそうだが,欧米ではアクション/アドベンチャーのジャンルに入れられることが多いので,ここではそれに従った)。
発売以前から公開されていた情報やプレス向けのプレビューデモでは,複雑すぎるように思えた新しいパズルや,ストーリー性の向上,個性的なキャラクターなど,筆者自身は発売前,「ひょっとして無理に詰め込み過ぎているのではないか」と心配していたが,いい意味で裏切られた。
Portal 2は,闫餍亭翁厥猊钎啸ぅ工侨肟冥瘸隹冥?つの穴を壁を開け,重力や慣性といった物理現象やさまざまなオブジェクトなども利用して,与えられたパズルを解いていくというゲームだ。パズルは簡単過ぎることもなく,レベルを1つずつクリアしていくことで,何かをやりとげたという達成感も感じられる。
さらに,パズルゲームではアイデア倒れに終わることの多いマルチプレイも,Co-opという形で面白いものに仕上がっている。「前作を超えたか?」と聞かれれば微妙かもしれないが,出色のゲームであることに間違いはないだろう。
次点
Total War: Shogun 2
開発元: The Creative Assembly
発売元: Sega Europe
年々ラインナップが寂しくなる一方のストラテジージャンルだが,2011年はSEGA Europeのと,Paradox Interactiveのという,日本の戦国時代をテーマにした二つのゲームの一騎打ちだった。筆者はどちらもかなりやり込んだが,演出や細かい部分のうまさで,Shogun 2を推したい。
これまで試行錯誤を続けてきたTotal Warシリーズが,このShogun 2によってThe Creative Assemblyの求めていたものにまとまってきたという印象だ。何千ものユニットが戦場で激しくぶつかり合う本作には,まるで,黒澤映画を見ているような躍動感がある。城攻めや海戦などのシステムも従来作以上に洗練されており,日本という(欧米のプレイヤーにとっては)特殊な地域を舞台にしながらも,スケールの大きさは尋常でない。
もちろん,歴史考察という部分において日本人プレイヤーが首をかしげてしまうところもあるが,ボリュームのあるスキル構成や,10種ほど用意されたプレイアブル勢力などで,リプレイ性も高い。源平合戦や幕末の動乱を描いたDLCも高ポイントもだ。なにはともあれ,「イギリスのメーカーが,戦国モノのゲームをよくここまで作ってくれた!」という喜びが大きい。
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Forza Motorsport 4
開発元: Turn 10 Studios
発売元: Microsoft Game Studios
こだわりのレースゲームが多かったのも,2011年の欧米ゲームの特徴の一つだろう。はコアなシミュレーション好きから,カジュアルなレースゲームファンまで,幅広い層を唸らせるゲームだろう。自動車メーカー80社から500種類の実車が登場し,外装ばかりでなくインテリアまで再現しているというボリューム感が素晴らしい。もちろん,これらの車をアップグレードしたり,ペイントを変えたといったことも可能。
個人的な話になるが,ようやくKinectを購入した筆者が最初にプレイしたKinect対応ゲームが本作。Forza Motorsport 4に用意されたAutovista機能は,一部の車種のみではあるが,まさにショールームで高級車をチェックしているような感覚を与えてくれる。ドアを開けたり,エンジンルームの奥を覗いたりといったことが可能で,Kinectにはこのような使い方があったのかということも痛感させらた。
ほかのプレイヤーの出したタイムと競ったり,車でサッカーをしたりといったさまざまなオンライン/オフラインモードが用意されており,長く遊べるゲームになっている。
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The Elder Scrolls V: Skyrim
開発元: Bethesda Softworks
発売元: Bethesda Softworks
2011年のRPGジャンルは,3月発売の,5月の,そして9月のと順当に遊べるゲームがリリースされてきた。しかし真打ちはやはり,11月にリリースされただ。前評判どおりの濃さと伽希?strong class="bold2">「プレイヤーをゲーム世界に引きずり込み,ロールプレイをさせる」というRPGの基本哲学を,もっとも忠実に守っていると言えそうだ。
シリーズ従来作同様,Skyrimはプレイヤーが自由に世界を旅し,自由にキャラクターを育て上げていくというオープンワールド型のRPGだ。ゲームの中では,他人(ゲームの中のキャラクターだが)の人生にダイレクトに影響をおぼすような決断をしなければならないことがしばしばあり,しかもどの選択が正しいのかは明確にされていないため,プレイヤーはある種の責任感を覚えつつゲームを進めることになる。このことが,ゲームに対する没入間を高めてくれるのは間違いないだろう。
本作のために開発された「Creation Engine」も秀逸で,DirectX9.0c世代のものとはいえ,緻密なグラフィックを背景にキャラクターが滑らかに動くところは感動モノだ。
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SpaceChem
開発元: Zacktronics Industries
発売元: Zacktronics Industries
昨年に引き続き,2011年のインディーズゲーム市場は非常に元気がいい。個人や実績のないメーカーにも関わらず,かなりの額の融資を受けるなど,欧米ゲーム業界もインディーズ市場に熱い視線を送っているようだ。
SteamやPlayStatiion Network,Xbox LIVE,AppStoreといったインフラも整備されており,消費者も比較的自由にインディーズゲームが購入できるようになってきた。もちろん,ゲーマーの目にとまらず埋もれていく作品も多くあり,「Minecraft」ような大成功を収めるのはほんの一部に過ぎないが,インディーズゲームの勢いとアイデアの豊富さには目を見張るものがある。
そんな中,今年のBestインディーズゲームとして推したいのが,Zacktronics Industriesというもっともらしい名前のメーカーでありながら,その実,ザック?バース(Zack Barth)氏一人によって開発された「SpaceChem」だ。
これは,元素記号をベースにした知的なパズルゲームで,例えばH2Oを“融合炉”に入れて分解したり結合させたりしつつ,必要な量の物伽虻盲皮い趣いδ谌荨N恼陇钦h明してもどんなゲームかさっぱり分からないという人も多そうだが,プレイしてみればすぐに分かるはずだ。
筆者も,チャリティとして購入者が自由に値段をつけられる「Humble Indie Bundle」に入っていなければ遊ぶことはなかったように思うが,ちょっと知的で,ついつい夢中になってしまう。プログラムや化学の知識が得られる,エデュテイメントとしての要素も魅力的だ。
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Gearbox Software
Duke Nukemシリーズのデベロッパであった3D Realmsが,さまざまな理由で険悪な関係に陥ってしまったTake-Two Interactiveに追加融資を断られ,いよいよ開発を諦めざるを得ない状況になっていたのが2009年の夏のこと。開発の経緯については,当連載のとで詳しくお伝えしているので,そちらを参照していただくとして,ピッチフォード氏は,そんな険悪ムードの3D RealmsとTake-Two Interactiveの間に割って入り,「俺達がデュークを世に出してみせるから」と両社の和解を説いたという。
2K Gamesブランドからの発売を控えていたピッチフォード氏にとって,この介入は,場合によってはTake-Twoの幹部を怒らせる可能性もあったという。しかし,もともと「Duke Nukem 3D」のMODクリエイターとして業界入りしたピッチフォード氏にとって,Duke Nukem Foreverがこのままお蔵入りしてしまうのを,座視するわけにはいかなかったそうだ。その結果,ようやくDuke Nukem Foreverが世に出ることになった。
約200人のスタッフを抱えるデベロッパのCEOでありながら,重要など信じた作品を情熱をもって作り上げたピッチフォード氏に敬意を表し,今年のBestスタジオ賞を贈りたい。
次点
The Elder Scrolls V: Skyrim
開発元: Bethesda Softworks
発売元: Bethesda Softworks
秘密にされてきたThe Elder Scrolls V: Skyrimの制作発表が行われたのは,2010年12月,北米のゲーム誌「GameInformer」上でのこと。それ以来,いろいろな形で同作の新情報をお届けしてきた筆者だが,発売された完成版が,これまで書いてきた記事のとおり最高の出来栄えであったことに感慨を覚える。開発費の高騰により,モデリングやアートワークをアウトソーシングするメーカーも多い中,本作はすべてBethesda Softworksのスタッフが作り上げた,コアゲーマーによるコアゲーマーのためのタイトルなのだ。
The Elder Scrolls V: Skyrimには150ほどのダンジョンが存在するというが,それらがすべて,わずか8人のデザイナーチームによって手作りされている。10分もかからず制覇できるものから,2日がかりでやっと突破できる長いダンジョンなど,バラエティも豊かで,それぞれに特徴的な風景を備え,出現する敵までまったく異なるのだから,すごいとしかいえない。
その作り込みは,それぞれの川の水量や流れの速さが異なるとか,木々の枝にも重さがあり,そのため風に揺れるスピードが違うとか,ちょっと気づきにくいような部分にも及んでいる。
240にもおよぶクエストに加え,ランダムに発生するクエストもあり,コンパニオンや旅のお供になった野良犬が死んだときなど,ショックを受けるほどのめり込んでしまう。
The Elder Scrolls V: Skyrimは,アクションゲームにおけるがそうであったように,オープンワールドタイプのRPGの指標となるものを見せてくれたようだ。他社にとっては,このゲームを超えないとゲーマーにプレイしてもらえないという気持ちにもなるはずで,RPGジャンルのレベル向上も期待できる。
今後,さまざまなDLCもリリースされていくはずだし,PC版ではMODなどもあるので,これからも長く楽しめるだろう。
著者紹介:奥谷海人
本誌海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,北米ゲーム業界に知り合いも多い。この「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年に連載が開始された,4Gamerで最も長く続く連載だ。バックナンバーを読むと,移り変わりの激しい欧米ゲーム業界の現状が良く理解できるはず。
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